神奈川県立近代美術館
神奈川県(1951年)
設計:坂倉準三
写真撮影:酒徳英彦氏 2016年1月
「鎌近」の愛称で親しまれてきた美術館です。
設計者である坂倉準三*1)がフランスから帰国して、日本で事務所を開設後ひとつめの作品であり、また、日本では初めての近代美術館になります。
森に囲まれた鶴岡八幡宮の境内で、鉄骨のピロティに支えられ、軽やかなたたずまいをもつ2階建ての鉄骨造であり、中庭を囲むロの字形の平面形状が特徴的です。
写真:サイト管理者撮影2016年1月
工業製品が多く使用されていますが、ピロティと平家池*2)の一体感による周辺の自然環境に馴染んだ場となっているほか、1階の細い柱と天井の高さは和様*3)を思わせる日本的な空間を演出しています。1階部分は池に面してピロティとなっており、水面からの光の反射が中庭まで引き寄せられ、その反射の一部はピロティの天井でゆらめきます。また、1階は中庭を含めて全体が屋外展示空間となっています。
写真:サイト管理者撮影2016年1月
2階部分には主要な展示室等が計画されており、ここへは建物正面の階段からアプローチし、2階で受付もぎりをする動線となっています。
写真:サイト管理者撮影2016年1月
また、中2階には学芸員室があり、ヴォールト天井のほかル・コルビュジエ*4)の提唱した水平連続窓(いわゆるリボンウィンドウ)により構成されています。なお、最終公開時には帰国後初めて使用したと言われる坂倉自身のデザインによる製図台がおかれていました。
写真撮影:酒徳英彦氏 2016年1月
1966年に新館が増築され、名称を神奈川県立近代美術館鎌倉館に変更されました。1999年にはDOCOMOMOの日本の近代建築20選*5)に選出されています。
なお、鎌倉館別館は大高正人*6)の設計により1984年に開館しています。
鶴岡八幡宮との敷地の借地契約が切れることより更地変換の予定でしたが、保存を求める運動により建物を保存する方向で現在検討されています。
新館の方は耐震性が確保できていないことにより解体の予定となっています.
(敷地が国指定の史跡のため新たな建築ができない立地になります。)
鎌倉館は今年、2016年1月31日閉館となりました。
*1)坂倉準三
ル・コルビュジエに師事した日本人のひとり(ほかに前川國男、吉阪隆正)。ル・コルビュジエの提唱していたピロティを中庭とともに日本で実現しています。
*2)平家池
源平池のひとつ。鶴岡八幡宮の境内へのアプローチにある太鼓橋(赤橋)の右側が源氏池、左側が平家池とよばれています。
*3)和様
鎌倉時代に中国から伝わった建築様式(大仏様、禅宗様)に対して、それまで日本で寺院建築に用いられてきた寺院建築の様式を指します。平等院鳳凰堂や浄瑠璃寺本堂などが代表例です。
*4)ル・コルビュジエ 近代建築三大巨匠と呼ばれる建築家の1人。ドミノシステムやモジュロールの発案者。
*5)DOCOMOMOの日本の近代建築20選
モダン・ムーブメントにかかわる建物と環境形成の記録調査および保存のための国際組織
do.co.mo.mo_japan
*6)大高正人
前川國男建築事務所出身。川添登や菊竹清訓らと共にメタボリズム運動を展開しました。都市計画家であり、広島基町再開発に関わり広島基町高層アパートの設計をしているほか、こどもの国や多摩ニュータウン、みなとみらい等多くの計画に関わっています。